
ジューク・ボックスに次々にかかるレコードをただぼんやり聴いていた。
僕たちはカウンターに戻り、
―村上春樹,風の歌を聴け
ビールとジム・ビームを飲んだ。
そして殆ど何もしゃべらず、
黙り込んだままジューク・ボックスに次々にかかるレコードをただぼんやり聴いていた。
「エブリデイ・ピープル」、
「ウッドストック」、
「スピリッツ・イン・ザ・スカイ」、
「ヘイ・ゼア・ロンリー・ガール」……。
鼠と僕は店の奥にある薄暗いコーナーで、
ピンボールを相手に時間を潰している。
ここではピンボールのことを、
幾ばくかの小銭の代償に死んだ時間を提供してくれるただのガラクタと評している。
ある意味、
それは正しいかもしれない。
ボクも昔々一時期ピンボールにのめり込んだことがあったけれど、
そこで得たものは何もない。
いや、
違うな。
その頃の記憶は得たているし、
案外思い起こせば悪くない思い出だ。
そういった幾ばくかの小銭の代償で得られた死んだ時間は、
決して無駄な時間ではなかったように思う。
それで鼠はどんなものに対しても真剣で、
僕がその夜の6回のゲームのうちの2回を勝てたのは殆ど奇跡に近いことだったらしい。
ゲームが終わるとカウンターに戻って、
ジューク・ボックスに次々にかかるレコードをただぼんやり聴いていた2人。
タイトルだけが、
ただ羅列されている。
Sly & The Family Stone – Everyday People
Different strokes for different folks
And so on and so on
And scooby dooby dooby
Oh sha sha
We got to live together
民族が違えばやり方だって違うんだ
ああだこうだいろいろあれこれ
俺たちはみんな一緒に生きなきゃいけないんだ
先ず「エブリデイ・ピープル」は、
スライ&ザ・ファミリー・ストーンが1968年に発表した曲。
5枚目のシングルで、
後に彼らの1stアルバム『Stand!』にも収録された。
ビルボード・Hot 100では、
4週連続で1位だった。
歌詞に出てくる『different strokes for different folks』は、
元々ボクシングのヘビー級王者だったモハメド・アリの言葉。
相手によってそれぞれ違うパンチの打ち方があるのさ、
って感じなのかな?

ちなみに1974年フォルクスワーゲンが広告で、
このフレーズを『Different Volks for different folks(人にはそれぞれのフォルクスワーゲン)』とパロっている。
Crosby, Stills, Nash & Young – Woodstock
オリジナルのジョニ・ミッチェルよりもリリースが早かったのが、
クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング1969年のアルバム『Déjà Vu』。
元々はジョニ・ミッチェルが、
当時恋人だったグラハム・ナッシュからウッドストック・フェスティバルの話を聞いてつくったもの。
今回は、
1970年のフィルモア・イーストのライブ音源から。
We are stardust, we are golden
We are billion-year-old carbon
And we’ve got to get ourselves
Back to the garden
私たちは星屑で黄金色に輝く
何十億年も旅をしてきた炭素の一粒
そして私たちは自分を取り戻して楽園に帰るのだ
Norman Greenbaum – Spirit In The Sky
When I die and they lay me to rest
Gonna go to the place that’s the best
When I lay me down to die
Goin’ up to the spirit in the sky
死んだら葬られ最高の場所へ行くのさ
死んでしまったら魂は空の彼方の神様のとこに行くんだ
ノーマン・グリーンバウムの『Spirit In The Sky』は、
1969年にリリースされBillboard Hot 100で3位になった曲で同名タイトルのアルバムにも収録。
いかにもこの時代の曲っていう雰囲気で、
イントロからして良い感じだ。
昔初めて聴いた時、
T・レックス?じゃないか~みたいに思った気がする。
それでグリーンバウムはこの曲のヒットだけで、
いわゆるOne Hit Wonder=一発屋と言われている。
本当はこの曲以前1966年にDr. West’s Medicine Show and Junk Bandというバンドで、
Billboard Hot 100で52位の曲『The Eggplant That Ate Chicago』もあるんだけどね。
Eddie Holman – Hey There Lonely Girl
Hey there lonely girl, lonely girl
Let me make your broken heart like new
ねえそこのロンリー・ガール
きみの傷ついたハートを新しくさせてくれないか
エディ・ホールマン1969年の『Hey There Lonely Girl』は、
ルビー&ザ・ロマンティックス1963年の『Hey There Lonely Boy』がオリジナル。
BoyをGirlにしてカバーしたわけだけど、
まあどっちが良いということもない。
そういえば山下達郎のアルバム『IT’S A POPPIN’ TIME』で、
この曲が取り上げられていたっけ。
そういうわけで…
ここに出てくる4曲は、
1968.69年にリリースされてそれなりにヒットした曲ばかりだ。
でも、
知らない人は知らない。
知っているにしても、
リアル・タイムで聴いた・聴いていないもある。
ある意味、
これはリトマス試験紙みたいなものなのかもしれない。
それぞれお互い全く関りはないけれど、
同じ時間を共有した者だけにわかるサインみたいなものなのかもしれない。
それ以外は仲間外れ、
というわけではないだろうけど。
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