Music of David Lynch’s Wild At Heart

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Wild at Heart

デヴィッド・リンチ1986年『ブルーベルベット』のあと、
1990年にTVドラマ『ツイン・ピークス』と同時進行だった映画が『ワイルド・アット・ハート』。

セーラ(ニコラス・ケイジ)とルーラ(ローラ・ダーン)逃避行を描いた、
ロードムービー。

カンヌ国際映画祭では、
パルム・ドールを受賞。

ローラ・ダーンの実際の母親でこの映画でも母親役(マリエッタ)のダイアン・ラッドは、
アカデミー助演女優賞にノミネートされた。

ただ、
残念ながらノミネートまでで終わってしまった。

結構、
良い感じだったけれどまあ相手が悪かった。

なにしろ受賞したのは『ゴースト ニューヨークの幻』、
ウーピー・ゴールドバーグなんだからある意味仕方がないと言えなくもない。

Music of David Lynch’s Wild At Heart

さて、
ここでも音楽を担当しているのはアンジェロ・バダラメンティ。

映画の中では、
オリジナル以外もいろいろと流れている。

そんなわけで、
今回は『ワイルド・アット・ハートで流れる音楽たち』。

サントラ『David Lynch’s Wild At Heart (Original Motion Picture Soundtrack)』収録曲中心に、
関連した曲も一緒に。

Gewandhausorchester Leipzig/Kurt Masur – Im Abendrot

先ずサントラの1曲目に登場するのは、
リヒャルト・ストラウスの『Im Abendrot』。

1948年に作曲された管弦楽伴奏歌曲集『4つの最後の歌』、
その第4曲『夕映えの中で』。

スクリーンではマッチが擦られて火が点き、
この曲が流れだす。

マッチの火からやがて画面全体がメラメラと燃えさかるオープニング・クレジットのシークエンスは、曲と相まってとても美しい。

リヒャルト・ストラウス 4つの最後の歌

第1曲 春(Frühling)
第2曲 九月(September)
第3曲 眠りにつくとき(Beim Schlafengehen)
第4曲 夕映えの中で(Im Abendrot)

この『4つの最後の歌』の第1~3曲は、
ヘルマン・ヘッセの詩。

そしてこの第4曲だけは、
ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフのもの。

最初にこの詩に曲付けをして、
その後第1曲-第3曲-第2曲の順に作曲されている。

実は第5曲もあるが、
未完に終わっている。

演奏はクルト・マズア指揮、
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。

歌までは流れなかったはずだけど、
ソプラノはジェシー・ノーマン

この曲は、
どうしてもシュヴァルツコップ/セルが真っ先に思い出されるけどこれも全然悪くない。

Im Abendrot:

Wir sind durch Not und Freude
gegangen Hand in Hand:
Vom Wandern ruhen wir beide
nun überm stillen Land.

Rings sich die Täler neigen,
es dunkelt schon die Luft,
zwei Lerchen nur noch steigen
nachträumend in den Duft.

Tritt her und laß sie schwirren,
bald ist es Schlafenszeit,
daß wir uns nicht verirren
in dieser Einsamkeit.

O weiter, stiller Friede!
So tief im Abendrot,
wie sind wir wandermüde –
ist dies etwa der Tod?

夕映えの中で

わたしたちは手を取り合い
苦しみや喜びの中を歩んできた
そして今この静かな地で
さすらうことを止め憩う

まわりの谷は翳り
空は暮れ始めている
二羽の雲雀だけが空高く上っていく
夢を見るようにもやの中を

こっちにおいで雲雀たちはさえずらせておけば良い
もうすぐ眠りの時がやってくる
この孤独の世界で
はぐれることもないだろう

ああ悠々とした静かな平和よ!
夕映えの中にこんなにも深く包まれ
旅の疲れを感じるとは
もしかしたらこれが死というものなのだろうか?

—Joseph Karl Benedikt von Eichendorff – Im Abendrot

Glenn Miller and His Orchestra – In The Mood

オープニング・クレジットが終わると、
画面に『Cape Fear(Somewhere near the border between North and South Carolina)』と出る。

ケープ・フィア、
ノースカロライナ州とサウスカロライナ州の境界近くのどこか。

ただ撮影されたのは、
ロサンゼルスにあるゴシック・リバイバル・スタイルで設計されたマッカーサー・ホテル。

今度は1939年、
グレン・ミラー楽団の『In The Mood』が流れる。

でもこの曲は、
ナゼかサントラには入っていない。

セーラとルーラがやって来て、
階段を下りる途中でセーラが男に話し掛けられる。

柱の陰から、
それを見つめるルーラの母。

男が、
ナイフを取り出す。

ルーラがそれを見つけて叫び、
セーラがナイフをかわして男を激しく痛めつける。

ここで後で出てくる、
パワーマッドの『Slaughterhouse』の最初のギター・リフが入り込んでくる。

もうそこまでしなくてもというくらいに執拗に男を痛めつけて、
結局最後は死なせてしまう。

まあ正当防衛と言えばそうなんだろうけど、
過剰防衛ってやつだな。

ここまでの3曲をただ並べて聴くと、
何となく居心地が悪いが映画の中では全く違和感がない。

Powermad – Slaughterhouse

サントラの2曲目は、
そのパワーマッド。

この映画で流れてなければ、
多分一生聴くことはなかったバンドかもしれない。

1989年リリースのアルバム、
『Absolute Power』の1曲目『Slaughterhouse』。

Caught by justice, killed a criminal
Self-defense, your plan
Tried to honor, could not obey
Time to feel their wrath…

―Powermad – Slaughterhouse

正義に捕らえられ犯罪者を殺した
自己防衛 アンタの計画
名誉を守ろうとしたけど従えなかった
彼らの怒りを感じる時が来た…

Lula : I’d go to the far end of the world for you, baby. You know I would.
Sailor : Rockin’ good news!
Are those toenails about dry yet, sweetheart?
We got some dancing to do!

ルーラ:あなたのためなら世界の果てまで行くわ そうする
セーラ:そりゃあグッド・ニュースだぜ
    足の爪はもう乾いたかい?
    踊るぜ!

そしてルーラがベッドの上で激しく足踏みをし始め、
コットン・ボールがベッドの上で踊り出す。

このシーンは曲と共にかなり印象に残るが、
ベッドの上にコットン・ボールがなければそこまでではなかっただろう。

そしてこの曲が流れ、
ルーラの激しい足踏みはダンス・フロアに移動する。

ステージでは、
実際にパワーマッドが演奏している。

パンク野郎が、
ルーラにちょっかいを出しているのを見たセーラ。

ヴォーカルが『Caught by justice, killed a criminal』と唄ったところで、
演奏を止めさせる。

そして、
しばし会話して男を叩きのめす。

Guy at Nightclub: You look like a clown in that stupid jacket.
Sailor: This is a snakeskin jacket!
And for me it’s a symbol of my individuality,
And my belief…
In personal freedom.

パンク野郎:そのバカみたいなジャケットを着ているアンタはまったくまるでピエロみたいだぜ
セーラ:これは蛇革のジャケットだ!
    そしてオレにとってこれは個性であり個人の自由に対する信念の象徴なのさ

イカれているともいえるが、
そのイカれ方は悪くない。

Angelo Badalamenti And Kinny Landrum – Cool Cat Walk

その後セーラが唄い出すのが、
プレスリー1956年の2ndアルバム『Elvis』に入っている『Love You』。

ただサントラ3曲目では、
アンジェロ・バダラメンティ & キニー・ランドラムの『Cool Cat Walk』が次に流れる。

この曲のヴォーカル・バージョンが、
ジュリー・クルーズ1993年のアルバム『The Voice of Love』に入っている。

このアルバムは、
全曲バダラメンティでリンチが作詞とプロデュース。

タイトルは『Cool Cat Walk』ではなくて、
『Kool Cat Walk』になっているけど。

Susan called Betsy, Betsy called Julee
Julee ran out of the house
Betsy called Susan, Susan called Julee
Julee ran back in her house…

―Angelo Badalamenti & David Lynch – Kool Cat Walk

スーザンはベッツィーに電話してベッツィーはジュリーに電話した
ジュリーは家から飛び出した
ベッツィーはスーザンに電話してスーザンはジュリーに電話した
ジュリーは家に走って戻った…

Nicolas Cage – Love Me

それで『Love You』は、
ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのコンビ。

ニコラス・ケイジの唄うこの曲は、
なかなか良い感じだ。

そして、
オリジナルのエルビスのバージョンはもちろん悪かろうはずもない。

Treat me like a fool
Treat me mean and cruel
But love me…

―Jerry Leiber, Mike Stoller – Love Me

オレを馬鹿にしてもいい
辛く冷たくあたってもいい
オレを愛してくれるのなら…

とまあ甘いラヴ・ソングだけれど、
何故かこのシーンでは女性の金切り声が何度も沸き起こる。

どう見ても、
それはフロアに居る女性たちのものではなさそうなところがちょっと怖い。

Them – Baby Please Don’t Go

さて公式サントラで5曲目に入っているのが、
ゼム1964年の『Baby Please Don’t Go』。

元々は1935年にビッグ・ジョー・ウィリアムズによって広められた、
伝統的なブルースソング。

オリジナルからすれば、
このアレンジはスゴイしカッコ良い。

ちなみに、
ジミー・ペイジが参加している。

Baby, please don’t go
Baby, please don’t go
Baby, please don’t go, down to New Orleans
You know I love you so…

―Big Joe Williams – Baby Please Don’t Go

ベイビー行かないでくれ
ベイビー行かないでくれよ
ベイビーニューオーリンズになんかに行かないでくれ
オマエを愛しているんだから…

とにかくブルースとロックとカヴァーが無茶苦茶多いので、
この曲だけのプレイ・リストをつくることができるくらいだ。

曲のタイトルは、
他に『Turn Your Lamp Down Low』だったり『Don’t (You) Leave Me Here』もあるが同じだ。

Koko Taylor – Up In Flames

サントラで6曲目は、
ココ・テイラーの『Up In Flames』。

この曲は、
この映画用に吹き込んだものなのかな?。

リンチが作詞しバダラメンティが作曲、
2人がプロデュースしたもの。

元々は、
1990年のリンチ監督の『Industrial Symphony No. 1: The Dream of the Broken Hearted』の曲。

前衛的なコンサート・パフォーマンスで、
バダラメンティとジュリー・クルーズが音楽担当。

出演したのは、
ニコラス・ケイジとローラ・ダーンで『Wild at Heart』と同じだ。

他にはクルーズ、
ツイン・ピークスで『別の場所から来た男』で出ていたマイケル J. アンダーソン。

テイラーのオリジナルはSpotifyでは見つからなかったので、
こちらもジュリー・クルーズ1993年のアルバム『The Voice of Love』のものを。

I fell for you baby
Like a bomb
Now my love’s gone
Up in flames…

―Angelo Badalamenti & David Lynch – Up In Flames

私はあなたに恋をした
それはまるで爆弾みたいに
今私の愛は消えてしまった
炎に包まれて…

ただ、
この曲はテイラーのバージョンの方が断然良い。

まさに、
メラメラと燃える炎が近くに感じられる。

クルーズの方は、
歌が始まると炎は違う世界の出来事のようだ。

Chris Isaak – Wicked Game

サントラの7曲目は、
クリス・アイザックの『Wicked Game』。

1989年の3rdアルバム、
『Heart Shaped World』に入っている曲。

The world was on fire and no one could save me but you
It’s strange what desire will make foolish people do
I never dreamed that I’d meet somebody like you
And I never dreamed that I’d lose somebody like you…

―Chris Isaak – Wicked Game

世界は燃えていてアンタ以外に私を救える人は誰もいなかった
欲望が愚かな人々を駆り立てるのは不思議だ
アンタのような人に出会うとは夢にも思わなかった
そしてアンタのような人を失うことになるなんて夢にも思わなかった…

映画では、
インストメンタルが流れる。

リンチ好きのアトランタのラジオ局音楽ディレクター、
リー・チェスナットがこの曲を広めたことでBillboard Hot 100で6位になっている。

イントロのギターが始まるだけで、
この映画のシーンがあれこれ思い出される。

ちなみにアイザックは、
次のリンチの映画『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』に特別捜査官チェスター・デズモンド役で出演している。

Gene Vincent & The Blue Caps – Be-Bop A Lula

続いてジーン・ヴィンセント&ブルー・キャップス、
1956年の『Be-Bop A Lula』。

Well be-bop-a-lula, she’s my baby
Be-bop-a-lula, I don’t mean maybe
Be-bop-a-lula, she’s my baby
Be-bop-a-lula, I don’t mean maybe
Be-bop-a-lula, she’s my baby doll
My baby doll, my baby doll…

―Gene Vincent, Sheriff Tex Davis – Be-Bop A Lula

ビー・バップ・ア・ルーラ 彼女はオレの女さ
ビー・バップ・ア・ルーラ 冗談で言ってるんじゃないぜ
ビー・バップ・ア・ルーラ 彼女はオレの女なんだ
ビー・バップ・ア・ルーラ マジに言ってんだぜ
ビー・バップ・ア・ルーラ 彼女はオレの愛する女
オレの愛する女 オレの愛する女なんだ…

コンポーザー・クレジットは、
ジーン・ヴィンセントとシェリフ・テックス・デイヴィスの共作となっている。

ただ、
ヴィンセントと同じ海軍病院に入院していたドナルド・グレイヴスが関与したといわれている。

他にもデイヴィスがグレイヴスの版権を25ドルで買い取った説や、
グレイヴスが一人で書いてヴィンセントに50ドルで売った説なんかもある。

最初この曲は『Woman Love』のB面だったんだど、
リリース後しばらくして逆になったんだよね。

Glen Gray Casa Loma Orchestra – Smoke Rings

サントラで次に登場するのが、
グレン・グレイ&ザ・カサ・ロマ・オーケストラ1937年の『Smoke Rings』。

この曲1932年のものと1937年のものがあるみたいだけど、
映画で使われているのは1932年盤なのかな?

キューブリックの『シャイニング』で流れていた『Midnight with the Stars and You』もそうだけど、
この頃のビッグ・バンドのダンス・ミュージックって結構好きだったりする。

Rubber City – Perdita

サントラで次に流れるのは、
ラバー・シティの『Perdita』

曲は、
デイビット・スラサーとデヴィッド・リンチ。

このラバー・シティのことは、
全然わからない。

スラサー2001年のアルバムに『Rubber City』というのがあるけど、
とにかくよくわからない。

その上残念ながら、
Spotifyでは音は見つからず。

Chris Isaak – Blue Spanish Sky

サントラ11曲目は、
再び登場のクリス・アイザック『Blue Spanish Sky』。

この曲も『Wicked Game』同様、
1989年の3rdアルバム『Heart Shaped World』に入っている。

It’s a big blue Spanish sky,
Lay on my back and watch clouds roll by
I’ve got the time to wonder why,
She left me …

―Chris Isaak – Blue Spanish Sky

スペインの大きくて青い空
仰向けになって雲が流れるのを見ているんだ
彼女が行ってしまったのはナゼなんだろう?
って考える時間はあるのさ…

Badalamenti & Landrum/Rubber City – Dark Spanish Symphony

サントラ12.13曲目は、
バージョンの違う『Dark Spanish Symphony』。

ストリングスのものと、
また出たラバー・シティのもの

Spotifyでは見つからないので、
2010年『Music For Film & Television』のバージョンを。

どっちが良いか?は、
どっちも良い!である。

Badalamenti & Landrum – Dark Lolita

続いて三度、
アンジェロ・バダラメンティ & キニー・ランドラム。

この『Dark Lolita』は、
Spotifyでは見つからずだけど良い曲だ。

Nicolas Cage – Love Me Tender

最後を飾るのは、
ニコラス・ケイジが唄う『Love Me Tender』。

プレスリー、
1956年のリリース。

プレスリー初主演映画、
『やさしく愛して』の主題歌。

映画のタイトルは元々『The Reno Brothers』だったけど、
主題歌のタイトルと同じにしたようだ。

原曲は『オーラ・リー』といって、
1861年に発表されたアメリカの大衆歌謡。

作詞はウィリアム・ホワイトマン・フォスディック、
作曲はジョージ・R・プールトン。

セーラが車の上を次から次へと渡り、
ルーラの元に辿り着き唄うこのシーンはリンチのものとは思えないが素晴らしいエンディングである。

Love me tender, love me sweet
Never let me go
You have made my life complete
And I love you so…

―Elvis Presley, Vera Matson – Love Me Tender

優しく愛しておくれ 甘く愛してほしいんだ
ボクのことをずっと放さないで
ボクの人生を完全なものにしてくれた
キミを愛してる…

ニコラス・ケイジ、
意外と言っては失礼だけど上手い。

まとめ Play List

というわけで、
今回はデヴィッド・リンチ監督1990年の映画『ワイルド・アット・ハート』で流れる音楽たち。

最後に、
まとめPlay Listを。

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