映画『この愛にすべてを』でフランがジョーにリクエストした『But Not for Me』

ピアノ

リクエスト曲は『But Not for Me』

「ウォーレン・ビィーティーがナイト・クラブのピアノ弾きのをやった映画は観た?」
「いや、観てないな」
「エリザベス・テイラーがクラブの客でね、とても貧乏で惨めな役なの」
「ふうん」
「それでウォーレン・ビィーティーがエリザベス・テイラーに訊くの、
 何かリクエストはありますかってね」
「それで」と僕は質問した。
「何かリクエストしたんですか?」
「忘れたわ。昔の映画だから」

―村上春樹-ニューヨーク炭鉱の悲劇

もちろんボクはこの映画をリアルタイムで観たわけではないけれど、
それでも随分昔に観たことはちゃんと覚えている。

映画は1970年公開、
タイトルは『The Only Game in Town(この愛にすべてを)』。

あの『シェーン』とか『ジャイアンツ』を撮った、
ジョージ・スティーヴンス監督最後の作品。

曲は、
あの『But Not for Me』。

敢えてタイトルが出てこないのは、
あまりにもスタンダードな有名曲だからだろうか?

踊り子のフラン(エリザベス・テイラー)が仕事を終えての帰り道、
『TONY’S PLACE』と言う店に入る。

そこでピアノを弾いているのが、
ジョー(ウォーレン・ビィーティー)。

そして上の会話のように、
フランがジョーにリクエストした曲が『But Not for Me』だ。

アイラ&ジョージ・ガーシュウィン兄弟の曲で、
元々は『Girl Crazy』というミュージカルの為のもの。

とにかく、
ありとあらゆる人がこの曲を取り上げている。

知られているのは、
チェット・ベイカーのものが1番なのかな?

もちろん悪くはないけれど、
他にもまだまだ良いものが沢山あるからいろいろと聞き比べてみると良い。

歌詞に出てくる『Beatrice Fairfax』って?

ちなみにこの曲の歌詞に出てくる『Beatrice Fairfax』は、
ニューヨーク・イブニング・ジャーナルのコラムニストのこと。

人生相談のコラムを書く女性で、
実際には作家のマリー・マニングと言う人だ。

相談の中身は、
だいたい若い女性からの恋愛相談だったらしい。

なので、
歌詞はこんな風になっている。

Beatrice Fairfax don’t you dare, Ever tell me he will care.

―Ira Gershwin-But Not for Me

拝啓ベアトリス・フェアファクス様。
彼が私のことを気にかけているなんて二度と私に言わないで。

この『Beatrice Fairfax』って、
ダンテの『La Divina Commedia(神曲)』に出てくるベアトリーチェ(Beatrice)からとったのかね?

あと『Pollyannas』って?

そういえばもう一つ、
『Pollyannas』っていうのが出てくる。

I never want to hear from any cheerful Pollyannas,
who tell you fate, supplies a mate; it’s all bananas!

―Ira Gershwin-But Not for Me

陽気なポリアンナの言葉なんて聞きたくもないわ、
きっといい人ができるなんて運命を告げるけどそんなの嘘よ。

ってところか?

ポリアンナはエミリー・ホグマン・ポーターが書いた児童文学の主人公、
ポリアンナ・ホイッティアーのことだろう。

何か問題が起きた時に負の側面から目を逸らすことで現実逃避的な自己満足に陥る心的症状のことを、
ポリアンナ症候群って言うよね?

ここでは要は、
『楽天家達』ということなんだろう。

Sam Cooke/Billie Holiday – But Not for Me

そんなわけで、
曲はもちろん『But Not for Me』。

沢山ある中から、
今はこれが聴きたい気分だな。

サム・クック1961年のアルバム『My Kind of Blues』に入っているやつ、
そしてビリー・ホリデイ1958年のアルバム『All Or Nothing At All』のやつを2曲続けて。

 

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