それほど悪くないピアノ・トリオの『誰も思い出せないくらい古い曲』

ピアノ

誰も思い出せないくらい古い曲って?

バンドが演奏を始めた。 誰も思い出せないくらい古い曲だった。

―村上春樹-ニューヨーク炭鉱の悲劇

演奏しているのは『それほど悪くないピアノ・トリオ』らしいけど、
それほど悪くないっていうのはどれくらいのクオリティのことを指しているのだろう?

すごく悪くはないけど、
すごく良いわけでもなく?

そこそこまあまあ良いわけでもないけど、
それほど悪いわけでもないという感じか。

まあいい。

それで、
いったいどんな曲が流れているだろう?

曲が流れているシチュエーションは、
六本木あたりの店を貸し切って毎年大晦日から新年にかけて開かれるパーティー会場。

紹介された女性が、
昔あなたに似た人を殺したことがあるのよという会話の中で流れている曲だ。

タイトルは、
出てこない。

ただ、
『誰も思い出せないくらい古い曲』ということだけだ。

思い出せない『くらい古い』だけで、
全く『思い出せない』わけではないみたいだ。

でもこれじゃあわからないから、
ここはスルーしても構わないところなんだけど何か音楽が流れていることは間違いない。

このシチュエーションに似合う曲は果たして何が良いだろう?
と考えてみても無駄だ。

そもそも考える基になる選択肢をあれこれ思い付くほど、
ピアノ・トリオに詳しいわけじゃあない。

そうなんだな、
知識がないとこういった時にその選択肢すら見つけることができないものなんだな。

想像力は、
実は知識がないと随分と貧弱なものになってしまうものなのだ。

貧弱な想像力の持ち主だけにはなりたくないと思っているのだが、
案外それって難しいのだ。

ピアノ・トリオ

もちろん、
ピアノ・トリオなんて掃いて捨てるほど存在しているのだろう。

もちろん、
捨てるには惜しいトリオだって腐るほど存在しているだろう。

もちろん、
腐ることもなく今も瑞々しく輝いているトリオだってたくさん存在しているはずだ。

でも、
これも知識が乏しいから想像できない。

とはいえ、
好きなピアノ・トリオくらいならいくつか挙げることはできる。

ただ、
こんなシーンだったらあのピアノ・トリオのこんな曲が似合いそうだぞとはパッと思い付かない。

それって不幸まではいかないけれど、
少し残念な話ではある。

似つかわしいかどうか?は別にして

そんなわけで、
似つかわしいか?似つかわしくないか?は別にして聴きたい曲を流すことでここはお茶を濁すしかあるまい。

ちなみに、
この『お茶を濁す』の『お茶』は抹茶のこと。

お茶の作法を知らない人はちゃんとお茶を点てることができないから、
その場で適当に真似事をして濁らせてごまかしたということからきているという話はここでは関係ない。

別に頭の中で、
音楽が流れないままでも読みすすめることはできる。

できるんだけど、
会話のバックに曲が流れている場面である以上何かしらの曲が流れていた方が楽しめるというものだ。

Roy Haynes – We Three

それで思い浮かんだのが、
コレ。

コレ?と思われる方も居るだろうが、
たまたま思い浮かんだのがコレなんだから仕方がない。

しかもピアノ・トリオとはいっても、
リーダーはピアニストではなくてドラマーだ。

1958年レコーディングのロイ・ヘインズのリーダー・アルバム、
タイトルは『We Three』。

ピアノはフィニアス・ニューボーン、
ベースはポール・チェンバース。

曲は、
このアルバムの最初を飾る『Relection』。

ロイ・ヘインズの短いドラム・ソロで始まり独特のリズムのシンバル、
そこにフィニアスのピアノとチェンバースのベースが入ってくる感じは何とも素晴らしい。

元々この曲は、
レイ・ブライアンがオリジナルだね。

ご本人のものもあるけど(1989年の『All Mine and Yours』収録)、
やはりこちらの方が良いな。

この曲は『誰も思い出せないくらい古い曲』でも何でもないし、
大晦日から新年にかけて開かれるパーティー会場に相応しいというわけでもない。

でもまあなんとなく、
この場面に流れていても悪くはないんじゃないかと思う。

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On A Slow Boat To China
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