彼女が大好きだという『蛍の光』

ピアノ

『Auld Lang Syne』が原曲の蛍の光

バンドが『蛍の光』を演奏し始めた。
「十一時五十五分」彼女はペンダントの先についた金時計をちらりと眺めてからそう言った。「私、『蛍の光』って大好きよ。あなたは?」

―村上春樹-ニューヨーク炭鉱の悲劇

この『蛍の光』はスコットランド民謡、
『Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン)』が原曲。

作曲者は、
不詳。

スコットランドの詩人、
ロバート・バーンズが今に伝わる歌詞の形にしたらしい。

旧友と再会して、
思い出話をしつながら酒を酌み交わすという内容だ。

日本の『蛍の光』は、
そういう意味では別物の歌詞なのだ。。

この『蛍の光』は、
明治14年(1881)尋常小学校の唱歌として小學唱歌集初編に採用された。

『蛍の光』の歌詞の秘密

それでこの曲は普通は2番までしか唄われないけれど、
本当は4番まで歌詞があるんだよね。

螢の光、窓の雪、書讀む月日、重ねつゝ、
何時しか年も、すぎの戸を、開けてぞ今朝は、別れ行く。

止まるも行くも、限りとて、互に思ふ、千萬の、
心の端を、一言に、幸くと許り、歌ふなり。

筑紫の極み、陸の奥、海山遠く、隔つとも、
その真心は、隔て無く、一つに盡くせ、國の為。

千島の奧も、沖繩も、八洲の内の、護りなり、
至らん國に、勳しく、努めよ我が兄、恙無く。

尋常小学校唱歌

『蛍の光、窓の雪、』のところは、
中国の故事『蛍雪の功』に基づいている。

これは、
2つの話が合わさったもの。

4世紀半ば頃、
司馬懿の曾孫元帝が興した東晋で車胤という若者が勉学に励んでいた。

家は貧しく、
夜に明かりをつけるための灯火の油を買うことが出来なかった。

暗い夜でも勉強が出来るように、
車胤は夏に絹の袋に数十匹の蛍を集めたその光で書物を照らして書物を読んだ。

やがて車胤は征西長吏となり中央に仕えるまでに至った、
というのが『蛍の光』。

もう1人、
同じ東晋に貧しい家庭で勉学に励む孫康という青年が居た。

冬は、
陽が落ちるのが早く夜が長い。

孫康は寒い窓際に机を置いて、
月明かりが積もった雪に反射する光を利用して書物を読んだ。

やがて立身出世した孫康は御史大夫に任じられた、
というのが『窓の雪』。

ちなみに、
小學唱歌集初編が刊行されたのは1年ズレて翌年の明治15年(1882)のことだ。

3番の歌詞『その真心は、隔て無く、』が、
最初『変わらぬ心、行き通い、』だったからだそうだ。

この歌詞が男女の間で交わす言葉だから、
というのがその理由らしい。

まあ、
そういう時代だったんだろう。

最近聴いたのはいつだったろう?
と考えたら昨年末大晦日の紅白歌合戦の最後だった。

毎年、
恒例で流れるよね。

それが終わると日本各地の寺社や名所を繋いで年越しの様子が流れる『ゆく年くる年』になって、
一気に雰囲気が変わる。

あれからもう、
一か月以上が過ぎている。

時間の進み方が、
どんどんどんどん早くなっている感じがする。

時間はちゃっちゃか進んでも、
何かが変わる速度は随分とゆっくりとなってしまった気がする。

やがて何も変わらなくなってしまって、
その瞬間に時間も突然止まるんだろう。

映画『Waterloo Bridge (哀愁)』

さて、
『蛍の光』だった。

ここではバンドが演奏していて唄われていないるわけじゃないから『蛍の光』というよりは『Auld Lang Syne』じゃないの?
と突っ込みを入れたくもなるがまあそのあたりはどうでも良い。

この物語の女性は、
この曲がただの好きではなくて『大』が付くくらい好きらしい。

まあボクも嫌いじゃあないけれど、
『大』が付くほど好きという対象にはならない。

この曲を聴くと、
昔の映画で流れていたのを思い出す。

ビビアン・リーとロバート・テイラーが出ていた、
1940年の『Waterloo Bridge(哀愁)』。

2人が『Candle Light Club』で3拍子にアレンジされたこの曲で踊り、
キャンドルが1つずつ消されていくシーンはとても印象に残っている。

Bobby Timmons – Auld Lang Syne

というわけで、
曲は『Auld Lang Syne』。

ピアノ・トリオの演奏もちゃんとある。

ボビー・ティモンズ1964年のソウルフル&ファンキーなクリスマス・アルバム、
『Holiday Soul』に入っているやつだね。

フェード・インしてきて盛り上がって、
やがてフェード・アウトしていくのがなんか良いんだよな。

こんな感じの生演奏が年越しパーティーで流れていたら、
かなり気分が良いだろう。

ベースはブッチ・ウォーレン、
ドラムスはウォルター・パーキンズ。

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