
<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビス。
「他には?」
―村上春樹,風の歌を聴け
「<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビス。」
今度は少し時間がかかったが、
彼女はやはりレコードを抱えて戻ってきた。
「次は?」
「それでいいよ。ありがとう。」
彼女はカウンターの上に3枚のレコードを並べた。
「これ、あなたが全部聴くの?」
「いや、プレゼント用さ。」
「気前がいいのね。」
「らしいね。」
ここで出で来る『ギャル・イン・キャリコ』の入ったマイルス・デイビスは、
1955年リリースの彼が珍しくワン・ホーンで通したアルバム『The Musings Of Miles』に入っている曲。
1955年といえば、
チャーリー・パーカーが亡くなった年だ。
そしてマイルス・デイビスは、
離婚した元妻のアイリーンから扶養義務不履行で訴えられて3日間刑務所にぶち込まれた年でもある。
この曲は、
当時マイルスが気に入っていたピアニストのアーマッド・ジャマルがよく演っていた曲だかららしい。
レッド・ガーランドがこのセッションで選ばれているのも、
アーマッド・ジャマルっぽいからということだったようだ。
物語で彼女は『ギャル・イン・キャリコ』の入ったマイルス・デイビスだけで、
少し時間がかかったけれどちゃんとレコードを抱えて戻ってくる。
元々聴いて知っていたのか?
マイルス・デイビスのLPでこの曲のタイトルを探したのか?はわからない。
それにしてもそんな持って回った言い方なんかしないで、
単純にマイルス・デイビスの『The Musings Of Miles』って言えば良いのにね。
そう言わなかったのは、
小指の無い女の子を試したんだろうか?
それともこの曲を知ってほしかったからなんだろうか?
いつものように正解はわからない。
A Gal In Calico
ところで『A Gal In Calico』は、
元々アーサー・シュワルツの曲で作詞はレオ・ロビン。
1946年の映画『The Time, the Place and the Girl』で出てくる曲で、
1947年の第20回アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた曲。
残念ながらこの年の歌曲賞は、
ディズニー映画『Song of the South(南部の歌)』の挿入歌『Zip-a-Dee-Doo-Dah』だった。
『A Gal In Calico』は映画の中ではデニス・モーガンとジャック・カーソン、
マーサ・ヴィッカース(サリー・スウィートランド吹き替え)が唄っている。
最初にレコーディングしたのはビング・クロスビーだけど、
初めてリリースしたのはテックス・ベネキーだ。
Miles Davis – Musings of Miles
この『A Gal In Calico』は、
アルバムの4曲目に入っている。
01 Will You Still Be Mine?
02 I See Your Face Before Me
03 I Didn’t
04 A Gal In Calico
05 A Night In Tunisia
06 Green Haze
・Miles Davis (tp)
・Red Garland (p)
・Oscar Pettiford (b)
・Philly Joe Jones (ds)
ビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』が入ったレコードは、
かつてLPを貸してくれて失くしてしまった女の子の為に。
グレン・グルード/レナード・バーンスタインの『ベートーベンのピアノ・コンチェルト第3番』は、
鼠の誕生日プレゼント用に。
じゃあマイルス・デイビスの『ギャル・イン・キャリコ』の入ったLPは、
いったい誰の為のものなんだろうか?
彼女の「これ、あなたが全部聴くの?」の問い掛けに「プレゼント用さ」と言っていたけれど、
このレコードだけが宙に浮いている。
てっきりレコード・ショップの店員である小指のない女の子にプレゼントするのか?
と思ったんだけどなあ。
ちなみにタイトルの『The Musings Of Miles』の『The Musings』っていうのは、
『物思い、沈思、黙想…』っていう意味だ。
1955年第2回ニューポート・ジャズ・フェスティバルで完全復帰をアピールしたマイルス・デイビス、
この後大手メジャー・レコード会社のコロンビアと契約を結ぶことになる。
1955年は悪いことばかりではなかった、
ということだ。
レナード・バーンスタインとマイルス・デイビス
ちなみにグールドが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲の指揮者バーンスタインは、
1956年に『WHAT IS JAZZ』というアルバムをリリースしている。
元々はアメリカCBSテレビの教養番組『オムニバス』で、
『ホワット・イズ・ジャズ』というタイトルの実演付きジャズ講座を行ったものをレコードとして作り直したもの。
A面はデューク・エリントン・オーケストラ『Take the ‘A’ Train』で始まって、
本人がピアノを弾いて歌いながらジャズの要素を説明していく。
B面は『Sweet Sue – Just You』のさまざまなバージョンを聴いて、
最後に現在形の演奏としてマイルス・デイヴィス・クインテットが登場する。
この演奏はバーンスタイン自らイントネーションやテンポを指示していていて、
この企画用に吹き込まれたものなのだ。
たまたまなのか意図的なのか?はわからないけれど、
『僕』が買ったレコードには間接的なちょっとした繋がりがあったりするのだ。
レナード・バーンスタインとビーチ・ボーイズ
そういう意味では、
バーンスタインとビーチ・ボーイズ(ブライアン・ウィルソンか)もちょっとした繋がりがある。
スマイル・セッションでレコーディングされて、
その後1971年にリリースされたアルバムのタイトル曲『Surf’s Up』という名曲がある。
もちろんブライアン・ウィルソンと、
ヴァン・ダイク・パークスと共作した曲だ。
1967年ブライアンはレナード・バーンスタインが司会を務めたアメリカのテレビ特番、
『Inside Pop: The Rock Revolution』に出演。
ブライアンはそこでピアノの前に一人座ってこの曲を披露していて、
バーンスタインはこの曲を絶賛している。
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