モーツァルト – 弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516

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【1973年のピンボール】の中のモーツァルト

それと旅行に関した本、
ガイド・ブック、
旅行記、
地図、
何冊かのベストセラー小説、
モーツァルトの伝記、
楽譜、
辞書が何冊か……、
フランス語の辞書の中表紙には何かの表彰のことばが書きこまれている。
レコードの殆どはバッハとハイドンとモーツァルトだ。

1973年のピンボール

部屋の照明とカーペットの色は思い出せなくても、
本棚の中にあるものは細かく覚えている。

案外、
そんなものだ。

大事なものごとはなぜか思い出せなくて、
些細なものごとを覚えていたりするものだ。

それはきっと、
ディティールだけ覚えているだけなら全体像を思い出さなくて済むからなのかもしれない。

それで彼女の部屋の本棚には、
近代の音楽のバトンを渡していった作曲家のレコードが並んでいる。

でもそこには、
不思議なことにヘンデルは不在だ。

まあそれは良いとして、
どんなレコードが並んでいるんだろう?

そもそもモーツァルトのレコードって、
今までどれくらいの数がリリースされたんだろう?

多分、
想像を上回る数に違いない。

なので、
当然ここに出てくる曲は想像できない。

弦楽五重奏曲

想像できないけれど、
ヴィオラが2挺の弦楽五重奏曲とかね。

弦楽五重奏曲は弦楽四重奏(ヴァイオリン2挺・ヴィオラ1挺・チェロ1挺)にヴィオラかチェロ、
稀にコントラバスを加える。

モーツァルトの弦楽五重奏曲のプラス1は、
全てヴィオラなのだ。

ちなみに弦楽五重奏曲は、
全部で6曲。

第1番 変ロ長調 K.174
第2番 ハ短調 K.406(516b)
第3番 ハ長調 K.515
第4番 ト短調 K.516
第5番 ニ長調 K.593
第6番 変ホ長調 K.614

小林秀雄【モオツァルト】の曲

今回はその中から、
弦楽五重奏曲第4番。

あれだね、
小林秀雄の【モオツァルト】の曲でもある。

ホラ、
例のあの有名なフレーズだ。

ゲオンがこれを tristesse allante と呼んでいるのを、
読んだ時、
僕は自分の感じを一と言で言われた様に思い驚いた。
確かに、
モオツァルトのかなしさは疾走する。
涙は追いつけない。
涙の裡に玩弄するには美しすぎる。
空の青さや海の匂いの様に、
「万葉」の歌人が、
その使用法をよく知っていた「かなし」という言葉の様にかなしい。
こんなアレグロを書いた音楽家は、
モオツァルトの後にも先きにもない。

小林秀雄 モオツァルト

tristesse allanteは、
流れゆくかなしさという感じか。

それを小林秀雄は、
かなしみは疾走するという。

流れると疾走では随分と違うが、
どう感じてどう表現するかはいろいろだ。

Henri Ghéon 
アンリ・ゲオン

1875年3月15日 – 1944年6月13日
フランスの詩人・劇作家・小説家

tristesse allanteとこの曲を表現しているのは、
著書【モーツァルトとの散歩】。

弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516

それでこの弦楽五重奏曲第4番、
1787年春頃に作曲を始め同年5月に完成させたもの。

Streichquintett Nr. 4 g-moll, KV 516
弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516

第1楽章 Allegro ニ長調 4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章 Menuetto:Allegrett ト短調 4分の3拍子 複合三部形式
第3楽章 Adagio ma non troppo 変ホ長調 4分の4拍子 展開部のないソナタ形式
第4楽章 Adagio – Allegro ト短調 4分の3拍子 – ト長調 8分の6拍子 ロンド形式

セシル・アロノヴィッツ/アマデウス弦楽四重奏団

この曲と言えば、
ウォルター・トランプラーを迎えたブタペスト弦楽四重奏団の名盤中の名盤がある。

でも今回は、
セシル・アロノヴィッツを迎えたアマデウス弦楽四重奏団。

1950年代に吹き込まれたヴァージョンもあるけど、
1970年のレコーディングの方で。

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