Music of David Lynch’s Blue Velvet

Blue Velvet

渋谷シネマライズ

ツイン・ピークスの音楽でお馴染み、
アンジェロ・バダラメンティ。

彼はこのデヴィッド・リンチ『ブルーベルベット(Blue Velvet)』で、
初めてリンチと組むことになる。

今では、
映画館にわざわざ行くことはなくなってしまった。

ただこの映画が公開された頃(日本公開は1987年)は、
ちゃんと映画を観るべき場所で観ている。

どこで観たんだっけ?
5月頃だったかな?

渋谷のスペイン坂にあったラブホ、
ホテルオリエントの跡地に建てられたライズビル地下のシネマライズでのこと。

今となっては、
あんな場所にラブホがあったなんて想像できないけれど実際にあったのだ。

でもパルコPart3ができたことで、
入り難い場所となってしまったのだろう。

そりゃあやはり入り難くなってしまえば、
あたりまえだけど客は減るに決まっている。

そんなわけでその後に生まれたライズビルは、
アルミダイキャストの外壁が印象的だった。

シネマライズはもう閉館してしまったけど、
当時はまだ開館したばかりだった気がする。

ちょうど、
あちこちにミニシアターが相次いで誕生していた頃だ。

調べてみたら開館は1986年で、
この映画は開館から9番目1987年の上映作品だった。

あの頃は行き当たりばったりで仕事に帰りによく映画を観に行っていて、
この映画も予備知識も何もなく220席の小さな空間に滑り込んで観たはずだ。

映画『ブルーベルベット(Blue Velvet)』

舞台となるのは、
アメリカの田舎町ランバートン。

古き良きアメリカという感じだけど、
そこには邪悪なものたちが潜んでいる。

ある意味、
ツイン・ピークスの原型のようでもある。

ブルー・ベルベットのカーテンが揺らめくタイトル・シークエンスが終わると、
流れてくるのはボビー・ヴィントンの『Blue Velvet』。

雲雀が囀る晴れ渡った青い空、
白いピケットフェンスの前に咲く赤いバラの花。

赤い消防車にはダルメシアンと、
こちらに向かってにこやかに手を振る消防夫。

再び白いフェンス、
黄色いチューリップ。

横断歩道を渡る子供たちを、
赤い『STOP』のボードを持って見守る誘導員。

消防車が通った道沿いにある白い家の全景、
庭で水を撒く男性。

家の中には、
お茶しながら寛いでTVを観ている女性。

ブラウン管に映し出されているのは、
拳銃を持った手。

庭で水を撒く男性、
枝に絡んで捻じれたホース。

蛇口からホースが抜けそうになっている、
男性はホースを引っ張る。

急に首を抑え、
苦しみながら倒れる男性。

ホースは手に持ったまま、
勢いよく流れる水に犬がじゃれつく。

何もわからない小さな子供が、
男性に近付く。

そして芝生の中では、
たくさんの虫たちが蠢いている…。

素晴らしく象徴的なこのオープニングの後は、
大学生のジェフリー(カイル・マクラクラン)がオープニングで庭で倒れた父親を見舞いに行く。

その帰りの野原で、
切り落とされた耳を拾うところから物語は始まっていく。

まあ内容についてはアレコレ語らないけど、
ハマる人はハマるし嫌いな人は全く受け付けないような映画かもしれない。

もちろんボクは、
気に入った。

ちなみに、
ジェフリーが拾う耳は当たり前だけどシリコンで本物ではない。

ただ貼り付けられている髪の毛は、
リンチ監督が散髪したものだそうだ。

撮影ではその耳に蜂蜜を塗って草むらに置いて、
冷凍仮死状態の蟻をばら撒いて気温で蟻が蘇生して動き出すまで待ってカメラを回したらしい。

耳はシリコンだけど、
クライマックスで銃殺されたフランクの頭から飛び出している脳みそは本物という噂がある。

Bobby Vinton – Blue Velvet

さて、
オープニングで流れるボビー・ヴィントン1963年の『Blue Velvet』。

これは、
なぜかサントラには入っていない。

ドロシー・ヴァレンズ(イザベラ・ロッセリーニ)が唄うバージョンが入っているけど、
まあハッキリ言って上手ではない。

でもバダラメンティとリンチの関係は、
彼女の歌唱指導で雇われたのがキッカケだからね。

She wore blue velvet
Bluer than velvet was the night
Softer than satin was the light
From the stars…

―Blue Velvet – B.Wayne, L.Morris

ブルー・ベルベットに身を包んだ彼女
それはベルベットよりも蒼い夜
それはサテンよりも優しく輝く星のようだ…

この『Blue Velvet』、
元々は1951年にトニー・ベネットがヒットさせたのがオリジナル。

作詞はリー・モリス、
作曲はバーニー・ウェイン。

その後多くのアーティストがカバーしたけれど、
1番成功したのがボビー・ヴィントンのバージョンだろうね。

あのバート・バカラックが、
アレンジとオーケストラの指揮をしている。

ビルボード・ホット100で、
2週連続1位。

Blue Velvet (Original Motion Picture Soundtrack)

それで『Blue Velvet (Original Motion Picture Soundtrack』は、
バダラメンティのオリジナルの他に本編で流れるオールディーズが何曲か収録されている。

Bill Doggett – Honky Tonk Part I

その中の1曲が、
ビル・ドゲット1956年の『Honky Tonk Part I』。

Part1と2の二部構成のシングルは、
ビルボード・ホット100で3週間連続2位になっている。

PartⅠがある以上、
ちゃんとPartⅡもあるので一緒に。

これはPartⅠの方が、
やはり良いかな。

Roy Orbison – In Dreams

ロイ・オービソン1963年の『In Dreams』が流れるシーンは、
かなりのインパクトだ。

ベン(ディーン・ストックウェル)が、
この曲を口パクで歌うシーンは印象的だ。

それを聴くフランク(デニス・ホッパー)の表情は、
もう笑ってしまうくらいに怖い。

そして、
フランクに殴られるシーンでもこの曲が流れる。

車の上で踊っている女装の男性の踊り方が、
これまたこびりつく。

この曲のある意味理不尽というか不謹慎な使われ方は、
曲の印象を大きく変えてしまう。

そう言えば、
以前にもこの曲のことは書いたことがあったな。

曲は、
もちろんオービソン自身によるもの。

A candy-colored clown
they call the sandman
Tiptoes to my room every night
Just to sprinkle stardust and to whisper
“Go to sleep.
Everything is all right.”

―Roy Orbison – In Dreams

毎晩のように部屋に忍び込んでくるのは
キャンディみたいな衣装を着た道化師
砂男と呼ばれるあいつさ
星屑を浴びせこう囁くんだ
さぁお眠りなさい
眠りさえすれば何の問題もない…

歌詞中に登場する『the sandman』は、
ドイツなどヨーロッパ諸国の民間伝承に登場する睡魔。

姿の見えない妖精で、
砂の入った大きな袋を背負った老人の姿をしている。

大きな袋の中には、
眠気を誘う魔法の砂が詰まっている。

砂男は、
夜更けになると人々の目の中にこの砂を投げ込む。

人々は目が開けられなくなり、
眠らずにはいられなくなってしまう。

学生ナタナエルが幼児期から怖れていた砂男の影に怯えて、
しだいに理性を蝕まれていくお話。

E.T.A.ホフマン1817年の『夜景小曲集』に収められた短編に、
この砂男が登場する短編『Der Sandmann』がある。

Ketty Lester – Love Letters

ケティ・レスター1962年の『Love Letters』が流れるシーンも、
かなり印象的だ。

ドロシーが暮らしているディープ・リヴァー・アパート、
710号室にジェフリーが入ると2人の男が死んでいる。

1人は椅子に座っていて、
青いベルベットを口に詰め込まれた上に耳を削がれている。

ジェフリーが物語の始まりで拾った主であり、
ドロシーの夫ドンだろう。

もう1人の黄色いジャケットを着たゴードン刑事は、
立ったままで死後硬直を起こしている。

そして流れてくるのが、
この曲だ。

銃撃戦が始まり、
窓ガラスが砕けるシーンがレスターの歌声に乗って繰り広げられる。

曲は、
エドワード・ヘイマンとビクター・ヤング。

元々は、
1945 年の映画『Love Letters』で流れた曲。

ただ、
その時は歌詞はなかった。

受賞しなかったけれど、
その年のアカデミー賞歌曲賞にノミネートされている。

Love letters straight from your heart
Keep us so near while apart
I’m not alone in the night
When I can have all the love you write

―Edward Heyman,Victor Young – Love Letters

あなたの心のこもった幾つものラブレター
離れていてもまるでそばにいるみたい
だから夜も1人じゃあない
あなたが書いてくれる愛の全てを受けとれるのだから…

プレスリーを始め多くのアーティストがカヴァーしているけど、
やはりこの曲はケティ・レスターだな。

彼女は歌の世界からは遠ざかって女優になったみたいだけれど、
確かに『大草原の小さな家』で学校の先生へスター・スー役で出演していた。

Chris Isaak – Gone Ridin’

そうそう、
サントラには入っていないけれどクリス・アイザックの曲が流れるのを忘れてはならないのだ。

もちろんリンチの次の映画『ワイルド・アット・ハート』で流れる曲、
あの『Wicked Game』の方が有名かもしれないけれど。

この映画でも、
2曲使われている。

そのうちの1曲が、
1984年のデビュー・アルバム『Silvertone』の収録曲『Gone Ridin’』。

シングルにもなっているけど、
同じアルバムの『Dancin’ 』のB面。

Well the moon is on the highway, darkness fills the sky
As long as I keep driving, I know that I won’t die…

―Chris Isaak – Gone Ridin’

ハイウェイの上にはお月さま 暗闇が空を満たしてる
運転し続けるかぎり 死なないことはわかってるのさ…

フランクが、
ジェフリーとドロシーを車に乗せるシーンで流れる。

Chris Isaak – Livin’ for Your Lover

もう1曲が、
同じアルバム『Silvertone』の収録曲『Livin’ for Your Lover』。

やはりシングルになっているけどこちらはA面で、
B面も同アルバムからの『Talk To Me』。

When I cry, I cry for you
When I’m blue, it’s just for you
When I’m sad, it’s always you
Someones’ livin’ for their lover, someones’ livin’ for their lover…

―Chris Isaak – Livin’ for Your Lover

オレが泣く時はオマエのために泣くのさ
オレがブルーなの時はオマエのせい
オレが悲しい時はいつもオマエのことでなんだ
みんな愛する人のために生きているのさ…

まあ曲も歌詞も能天気な感じだけど、
嫌いじゃあない。

この曲は、
ジェフリーとサンディがダンス・パーティーに到着するシーンで流れていた。

そんなわけで…

映画『Blue Velvet 』で流れた音楽、
まとめPlay List。

Music of David Lynch’s Blue Velvet

01 Main Title (Angelo Badalamenti)
02 Night Streets / Sandy And Jeffrey (Angelo Badalamenti)
03 Frank (Angelo Badalamenti)
04 Jeffrey’s Dark Side (Angelo Badalamenti)
05 Mysteries Of Love (French Horn Solo) (Angelo Badalamenti, David Lynch)
06 Frank Returns (Angelo Badalamenti)
07 Mysteries Of Love (Instrumental) (Angelo Badalamenti)
08 Isabella Rossellini – Blue Velvet (Bernie Wayne, Lee Morris) /
  Blue Star (Angelo Badalamenti, David Lynch) /
09 Lumberton U.S.A. (Angelo Badalamenti, David Lynch)
  Going Down To Lincoln (Angelo Badalamenti)
10 Akron Meets The Blues (Angelo Badalamenti)
11 Bill Doggett – Honky Tonk Part I
  (Bill Doggett, Billy Butler, Clifford Scott, Henry Glover, Shep Sheppard) 
12 Roy Orbison – In Dreams (Roy Orbison)
13 Ketty Lester – Love Letters (Edward Heyman, Victor Young)
14 Julee Cruise – Mysteries Of Love (Angelo Badalamenti, David Lynch)
15 Chris Isaak – Gone Ridin’(Chris Isaak)
16 Chris Isaak – Livin’ for Your Lover(Chris Isaak)

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