Louis Hector Berlioz : Symphonie fantastique Op.14
村上春樹『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』で流れる音楽、
5)はベルリオーズ 「幻想交響曲」作品14。
曲の構成
この曲は、
5つの楽章から成る。
第1楽章「夢、情熱」 (Rêveries, Passions)ハ短調→ハ長調
第2楽章「舞踏会」 (Un bal)イ長調
第3楽章「野の風景」 (Scène aux champs)へ長調
第4楽章「断頭台への行進」 (Marche au supplice)ト長調
第5楽章「魔女の夜宴の夢」 (Songe d’une nuit du Sabbat)ハ長調→ハ短調→ハ長調
ベルリオーズ 「幻想交響曲」作品14 5枚のレコード
ここでは、
5枚のレコードが紹介されている。
・ピエール・モントゥー(Pierre Monteux)
/サンフランシスコ交響楽団(San Francisco Symphony)1947年
・トマス・ビーチャム(Thomas Beecham)
/フランス国立放送管弦楽団(Orchestre national de la radiodiffusion Française)1958年
・シャルル・ミュンシュ(Charles Munch)
/パリ管弦楽団(Orchestre de Paris)1967年
・レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)
/フランス国立管弦楽団(Orchestre national d’Île de France)1976年
・小澤征爾
/ボストン交響楽団(The Boston Symphony Orchestra)1973年
ピエール・モントゥー/サンフランシスコ交響楽団
1枚目はピエール・モントゥー指揮、
サンフランシスコ交響楽団。
トマス・ビーチャム/フランス国立放送管弦楽団
2枚目はトマス・ビーチャム指揮、
フランス国立放送管弦楽団。
シャルル・ミュンシュ/パリ管弦楽団
3枚目はシャルル・ミュンシュ指揮、
パリ管弦楽団。
レナード・バーンスタイン/フランス国立管弦楽団
4枚目はレナード・バーンスタイン指揮、
フランス国立管弦楽団。
小澤征爾/ボストン交響楽団
5枚目は小澤征爾指揮、
ボストン交響楽団。
おまけ1
この曲の原題は『Épisode de la vie d’un artiste, symphonie fantastique en cinq parties』、
訳すと『ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲』。
ベルリオーズが、
初めて作曲した交響曲。
ベートーヴェンの交響曲(第3番と第5番)を1828年に聴いたことが、
構想の1つのキッカケになったようだ。
あともう1つは、
当時流行していたゲーテの『ファウスト』。
ここでベルリオーズは、
大規模で描写的な交響曲を構想。
更に、
自伝的要素と幻想文学的要素を持った新たな曲作りに挑戦する。
そして1830年に完成し初演、
大成功を収めることになる。
1830年に初演されてから15年後に楽譜が出版され、
1855年まで改訂が重ねられている。
ここで言う『ある芸術家の生涯の出来事』とは、
ベルリオーズ本人の失恋体験とアヘンの幻覚のこと。
プログラム(解説文)も含めて大きな変更が加えられた1855年版では、
こう書かれている。
Un jeune musicien d’une sensibilité maladive et d’une imagination ardente, s’empoisonne avec de l’opium dans un accès de désespoir amoureux.
―Berlioz-Symphonie Fantastique: Le programme de la symphonie
La dose de narcotique,
trop faible pour lui donner la mort,
le plonge dans un lourd sommeil accompagné des plus étranges visions, pendant lequel ses sensations,
ses sentiments,
ses souvenirs se traduisent dans son cerveau malade,
en pensées et en images musicales.
La femme aimée,
elle-même,
est devenue pour lui une mélodie et comme une idée fixe qu’il retrouve et qu’il entend partout.
病的な感受性と激しい想像力に富んだ若い音楽家が
恋の悩みによる絶望の発作からアヘンによる服毒自殺を図る
しかしながら彼を死に至らしめるにはその麻薬の量では足りず
彼は奇妙な幻覚を伴う深い眠りに落ちてしまう
その間彼の感覚や感情や記憶が彼の病気の脳の中で思考や音楽的イメージに変換される
彼にとって愛する女性はどこでも見つけ聞きするメロディーであり固定観念となっている
ベルリオーズは初演から各楽章に付けた標題とそのプログラムを印刷、
観客に配って各楽章の音楽の進行が何に基づくものか理解させるようにしている。
このプログラムも何度も修正され、
20弱存在しているようだ。
バーンスタインはこの曲を『the symphony as the first musical expedition into psychedelia』、
『サイケデリアへの最初の音楽の探検』と言っている。
そして『Berlioz tells it like it is. You take a trip, you wind up screaming at your own funeral』、
『ベルリオーズはそれをありのまま語っておりトリップして結局自分の葬式で叫ぶことになる』とも。
実際この曲をつくるきっかけのもう1つは、
イギリスのシェイクスピア劇団の『ハムレット』の主演女優ハリエット・スミスソンへの一方的な恋。
なんとかして彼女に振り向いてもらおうとしてこの大掛かりな作曲を始めたわけだけど、
結局振り向いてはもらえずピアニストのマリー・モークと婚約。
しかし、
それも彼女の母親により破談となってしまう。
そのことで、
母親とモークと結婚するというピアノ製作者イグナツ・プレイエルの長男カミーユ・プレイエルを殺害を企てたりしたらしい。
実際に拳銃と復讐後に自殺するためのアヘン、
そして近付く為のメイド用の服まで用意したようだが実行はしていない。
その後スミスソンと再会して結婚することになるけど、
結局は仲違いして別居となり数年後に彼女は亡くなってしまう。
その際、
ベルリオーズは息子に向けてこんな手紙を送っている。
私は一人で生きることもできないし、
また14年来一緒に暮らしてきた女性を見捨てることもできなかったと。
実際脳卒中を患いほとんど麻痺状態の彼女は継続的な看護を必要としていたが、
その費用は彼が支払ったそうだ。
そしてパリにいる時は彼は絶えず彼女を訪問し、
時には一日に二回も訪れたりもしていたらしい。
おまけ2
この曲の第5楽章になると、
当たり前のようにキューブリック1980年公開の映画『シャイニング』のオープニングが浮かんでくる。
主人公一家が、
山道を車で働き先のホテルに向かっているシーンを俯瞰で撮影したところ流れるやつだ。
ウェンディ・カーロスがアレンジしたもので、
この映画の見事な入口となっている。
この旋律は『Dies irae』というやつで、
カトリック教会で死者のためのミサ(レクイエム)で歌われてきた聖歌の1つ。
この『ファ・ミ・ファ・レ(F・E・F・D)』の旋律は、
例えばモーツァルトやヴェルディの『レクイエム』で用いられている。
これについては、
長くなりそうなのでそのうち別で書こうと思う。
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