土の中の彼女の小さな犬のジミー・ヌーン
僕は去年のクリスマスに買ったカシミヤのセーターも気に入っているし、
―村上春樹-土の中の彼女の小さな犬
ストレートで飲む高いウィスキーも気に入っているし、
高い天井と広々したベッドも気に入っているし、
ジミー・ヌーンの古いレコードも気に入っているし… 要するにそれだけのことなのだ。
要するにそれだけのことなのだと言いながら、
カシミヤのセーターとか高いウイスキーとか天井とか広々としたベットとか言っているし。
もちろんそれらが悪いわけでもなんでもないけど、
それだけのことってねえ。
その中に一つだけ、
ニューオリンズ・ジャズの代表的なクラリネット奏者の1人であるジミー・ヌーンの古いレコードというのはなかなか良い忍び込ませ方だ。
こういった人の音というのは、
ある種失われてしまった音と言ってもよくて古いレコードでしか聴けないものだ。
最近の音楽の中に、
姿を変えて紛れ込むことはまずない。
特にクラリネットなんて1940年代を通り過ぎると、
その輝きは一気になくなってしまった感じだ。
もしかすると、
それってボクの勝手な考えなのかもしれないけどそういう気がするのである。
この辺りの人たちのことは、
詳しくない。
1Q84のジミー・ヌーン
ただ『1Q84』のなかにも、
以下のようにジミー・ヌーンが出てくることは覚えている。
とはいえ、
またまたそんなことを言われてもなと思う。
こんなわくわくさせられるソロは、彼以外の誰にも吹けない。
―村上春樹-1Q84
ジミー・ヌーンも、シドニー・ベシェも、ピー・ウィーも、ベニー・グッドマンも、
みんな優れたクラリネット奏者だけど、
こういう精緻な美術工芸品みたいなことはまずできない」
この文章の主役は、
もちろんバーニー・ビンガードだ。
ボクは注意深いリスナーでもなんでもないので、
精緻な美術工芸品みたいなソロってどんなの?っていうのがよくわからない。
ジミー・ヌーンが(シドニー・ペシェもピー・ウィーもベニー・グッドマンもそうらしいけど)、
わくわくさせられるソロは誰も吹けないというのもなんだかピンとこない。
でもまあ、
こういった人達のレコードを気に入っているというのはよくわかる。
レコードって、
音楽を聴くだけのためのものではないからな。
もちろん音楽を聴くためのものなんだけど、
昔の会ったことも見たこともない人がある時に演奏した音=歴史の一部を所有しているという気がするのだ。
考えようによっては、
これはなかなかステキなことだ。
Jimmie Noone – I Got A Misery
さて、
ここに出てくるジミー・ヌーンの古いレコードって何だろう?
といっても、
何かが思い浮かぶほど知っているわけではない。
78 RPM、
SPレコードなんだろうか?
わからないから、
昔聴いて何となく覚えている1929年に吹き込まれた『I Got A Misery』を聴こう。
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